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希う

あれは何年前になるだろうか。
まだ小学生で、普通に学校行って、普通に悪友たちとつるんで馬鹿やってた頃。
そんな普通の生活が、ひとまずの終わりを迎えた頃。

東京に引っ越す前の晩。
深夜の道を、ただ無心に駆けていた。
ビー玉二つ握り締め。影がゆっくりと付いてくる。

いつもの踏切を走って越えた時には、もう涙腺が決壊寸前だった。
言い訳が思い付かなかったから、意地でも泣かない、って思っていた。






家は、割と早く寝る方だったと思う。
たまに夜更かししようと思えば、親の雷が飛んできた。
だから、ちょっとした冒険気分だった。
寝静まった家をこっそり抜け出して、夜の街を走り抜けていった。

あいつが、『星を見たい』って言ったから。
一度離れてしまえば、小学生にとってはほぼ絶望的な距離だ。
それは殆ど外国に行くような感覚。
だから、って訳じゃないと信じたいけれど。
何とかしてやらなくちゃ、って思っていた。

夏の蒸し暑さは今とそれ程変わらず、走り終えた後には汗がびっしょり。
着いた場所は、近所の空き地。
来年の今頃には、何か工事が始まるらしい。
大人の都合なんて知ったこっちゃない、ってよく話してたっけ。

相手はまだ来ていない。
吐く息は熱く、周りの湿気を吸い込んで夜空に溶けていった。
目線で追って、辿り着いた先。
思わずため息が出そうに、綺麗な星々。
眠気と戦いながら授業で習った、あの夏の大三角が目の前に広がっている。
天の川が見えるほど綺麗な空じゃないけれど、それでも少年の心を奪うには充分すぎた。

「うわぁ…………」

星と星を結ぶのに夢中で、ちっとも気付かなかった。
背後にこっそり忍び寄る影。


――――ふっ、と耳元に吹きかけられた息に、思い切り前につんのめった。


危うく湿った土とキスしそうなほどに傾いた所で、やっと掌が地面を掴んだ。
背中からは、けたけたと笑い声。

「お前っ、なぁっ……!」

文句を言うつもりで、勢い良く身を起こして振り返った。
なのに。


言葉が出なかった。
そんな顔、するなよ。
そう思った。

「……ありがとなぁ、来てくれて」

どうもいたたまれなくて、目を逸らした。
小学生の餓鬼には、まだどうしようも無かったんだ。

これだけ綺麗な微笑をくれると。
これだけ脆そうな笑顔を見ると。









   今ここに星が落ちでもしたら、二人して死ぬんだろうか。
   
   一緒に、ここの土に埋まってしまうんだろうか。

   歳にしても幼すぎる馬鹿な考えを隅に追いやって、二人で夜空を眺めていた。








「なぁ」

「なんや」

「行くんやね」

「おう」

短い遣り取りだった。
自分の中で整理はしたつもりで、他の奴とも散々繰り返した遣り取り。

「なぁ、お願いがあるんよ」

彼女は小さな、いかにも女の子といった風情のポシェットの中を弄って、それを大事そうに掌にしまった。
はい、と差し出したのは、小さなおもちゃのピストル。
受けとって、しげしげと眺めてみた。
弾すら出そうにない、ただの飾り。
ゆっくりと、狙いを定める真似をしてみた。
狙うは、三角の中央。
夜の果て。

「もし、二人がもっと大きくなって、どっかで会って、そん時にうちがあんたのこと覚えてへんかったら――――――」

照準がびくり、と震えた。
考えたこともない、しかしながら有り触れた状況。


「これでうちを、撃って」


二人を撫でるように吹いた風が、夏草を攫った。
心に穴が空いたみたいに、風は自分を通り抜けていく。
まるで、そこに居ないかのように。

「そんじゃ、な」

この時、この瞬間。
俺が彼女を思い出すとき、真っ先に浮かぶ表情。
友達の笑顔にしては、少々綺麗過ぎた。

少なくとも、気付いたら泣いてしまっていたくらいに。

今思い返しても、とんでもない『さよなら』だった。
小学生に背負わすには重過ぎる荷物のようにも思えるけれど、



二人とも、信じてたよな。
今思えば馬鹿だとしか思えないけど――――傍に居るのが当たり前過ぎてさ。
距離は離れたとしても、絶対に忘れるはずなんてなくて。

信じてたよな。
忘れることなんて無い、って。
もしあるとしたら、死ぬ時だって。











ふとそんなことを思い出したのは、夜風の所為だろうか。
それとも、夜空に瞬く星の仕業?


そうでないなら、或いは――――――






彼女が、目の前に居るからだろうか。
日頃から準備の無い、自分を少しだけ呪った。
彼女は、それすら見透かすように笑う。
昔と、同じ。


どうしようか考える頭も回らず、ただ指先で銃の形を作って。
小さく、言った。
狙いは外さない
外す訳もない。



―――――ぱぁん。




―――――――――――――――

これは、昔アニマックスで観た「ほとり〜たださいわいを希う。〜」というアニメに感化されて書いたものです。内容は全然違うんですけどね(笑)
ただし、忘れることの切なさみたいなテーマは影響受けてます。
夜中に家を抜け出して星を見に行く、のくだりは実体験ですが、今見返すとBUMP OF CHICKENのあの曲のイメージも入ってるような気が。
しかしこれ、言わなきゃ誰かわからないんじゃ?(ぇ

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